最近、山のようにある古いカセットテープをひたすらデジタル化する作業をはじめました。いろいろ面白いものが出てくるので、たまに紹介していこうかと思います。
今回は、1996年の鈴慕会ゆかた浚いでの、二代青木鈴慕による講習の書き起こしを載せます。題材は、錦風流本曲『調・下り葉』です。この曲は今年(2023年)9月1日の私のリサイタルでも演奏しますので、その参考にもなるかと思いこの講習を精読すべく、書き起こしたものです。カセットテープでの録音ですので、裏返す時に1分以内くらいのロスがあると思われますが後は講習全体を収録しています。
はじめにお断りとして申し上げておきますが、発言の事実かどうか、および、紹介する技法等が流派流儀として正確であることを保証するものではありません。それよりも、1人の尺八演奏家が、ある古典曲をどのように捉えているか、その意識のあり方といったものをぼんやりと感じていただければ面白いかと思い公開しているものです。
書き起こし文中、() は書き起こし者補足です。
発言者は全て二代青木鈴慕です。
【A面ここまで】と書いたところまでがA面、以降B面です。
以下書き起こし文。
うちの父、初代鈴慕が、琴古流風の楽譜に著したんですこれ。で、錦風流は全部で十曲しかありません。で、その曲を全部、わかりやすく、一応付点もつけてあります。大体の長さですね。これあの、拍子のない音楽ですから。おおよその長さです。目分量ですね。
えーと、で琴古流では使わない3の指の使い方が、色々あります。たとえば一番最初のロの出方でも、普通琴古流の場合だったら
⦅実演する⦆
2孔をアタったりして出るんですけれども、錦風流の場合では3孔を非常に多く使う。
⦅実演する⦆
装飾音がだから、これ(3孔)を開けてますから装飾音がウの音になりますよね。
⦅実演する⦆
それから次のところ、二節目、ツレというものも、琴古流の場合だったら
⦅実演する⦆
2孔でアタって
⦅実演する⦆
とこう出るところですけれども、錦風流の場合は3です。あくまで3を使う。
⦅実演する⦆
で、ちょっとウを、ウを装飾音風に聴かせてもよいと書いてありますね。
⦅実演する⦆
こういうやり方。
それから、人によってはこのウの装飾音の方がうんと目立つ人もいるんですね。癖があって。そうすると、
⦅実演する⦆
こうなるともう装飾音といえないくらいですね。ウウツレーと出る人もいます。
それからあの、ただ伸ばすんじゃなくてコミ吹きというのを、非常に多く用いるんですけれども、この、うちの父の著した楽譜ではコミ吹きのことは書いてありません。全然。あれは独特なもので、なんていうかな、津軽で育った人の訛りみたいなものだから、あのー、真似をしてもその味が出ないというやつですね。そういうことでコミ吹きは一切しないで、この曲を吹くことになっています。
⦅コミ吹き実演⦆
だからブーっとユリ音の代わりにバーバーバーバーバーというあのー、コミ。コミって言うんですね。コミ吹きを入れてるんですね。あのー、その地方では。で、その地方出身の方々はこれを一生懸命、もう全部にコミを入れてるみたいなんです。ですからこれはまあ違う機会の、研究にいたしましょう。今は音の流れをやりたいと思います。それであの詳しいあの、錦風流の本当の専門の人のだと、コミの数まで書いてあるそうですね。ブーブーブーブーブーブーはいここは6回ここは4回とかここは2回とかね。そうするとなんかがんじがらめになるような感じもするけれども、やっぱり、あのー、古典をそうやって今残せるようになったってことは良いことですね。
そうして、今やりましたのは、ロの出方と、ツレの出方というわけですね。それから、その次ハローロー、ウリーリとあって、1行目の最後のフレーズが、ウのところに四四と書いてあります。これは装飾音がリになるから、
⦅実演する⦆
リーウウ、リーウウと4孔でね、
⦅実演する⦆
で、点々々の、2行目ですね、点々々の、息切りみたいのあるのは、一瞬そこで切って、でもいわゆるハーッという息継ぎじゃないけれども、スッと息を継いで、後をやりましょうということ。後はちょっと、あの息が要るもんですから、そこでちょっと息を盗むということ。
1行目の終わり。
⦅実演する⦆
えーと今のところ、2行目の、三押、ツロローというところは、いわゆるオトシと言ってるんですね。これはあの奥州薩慈やなんかにも出てきます。阿字観なんかにも。古典本曲独特の、ツロロー。琴古流ではこの動きはありません。ツロローと真っ直ぐに上げちゃいますけれども、ツロローとひとつしゃくりを入れて、えー
⦅実演する⦆
それからハローが
⦅実演する⦆
ツレーと3で押すと、またちょっと味が違いますよね。
⦅実演する⦆
えーとチの四四、ヒーチチーですねこれは、いわゆるこう、かなりわざとらしくやっていいんですね。
⦅実演する⦆
(4孔を)こう開けた音を装飾音的に使ってリールールールー。で琴古流ですと押し指っていうのはあまりパタパタやるなっていうふうに、外曲の場合なんかで言いますよね。
⦅実演する⦆
細かくこうやれと。だけどこの場合には大きくやっていいんです。
⦅実演する⦆
おおらかにやってください。チチー2ー44444444ウーというやつですね。
それから3行目
⦅実演する⦆
このリをちょっと装飾音に入れます。リーちょっとスリ下げのような感じ。琴古流本曲ではスリ下げってのはほとんどないですけれど。リーウウって。
⦅実演する⦆
これウが入んないと、できませんねこれ。
⦅実演する⦆
ウを書いといてください。ウツレーレ。それからロの三三これもウが、ちゃんと入んないと、できない。
⦅実演する⦆
こうね。
それから下り葉。
⦅実演する⦆
えーこの辺までは大体わかりますね。あんまり変わったことはありません。えーチのところに四四と書いてありますのも、これ琴古的なものですから。チチと二つ素早く打ってくださればいいですね。チの四四のところ。
そして、1行目の一番下が、ツレーチヒー。これ縦の棒が伸びていない場合には、割合早めに切ってください。チヒーイー。
ツロロー、途中で甲に変えて、リー。
ハアーラロー、普通のハアラロですね。
⦅実演する⦆
これはコロローとゆっくりですね。コロコロローじゃなくてコロローツレールー。コロロからやります。3行目の真ん中辺
⦅実演する⦆
これは3孔でアタってください。二四五のところ。えーウヒーヒーハーハとこれあの3孔でアタるんですね。ハーハハーハハーハハハ。3行目の真ん中のウヒーからいきます。これ三と書いてあるのは三のウということですね。3孔を打つんじゃなくて三のウということ。
⦅実演する⦆
このハローはね、ありません。以前は、根笹派の方も、吹いてた方がいらっしゃったようですけれども、古来はこれあったらしいんですけども、もう昭和の、父がこの譜を著したのが昭和10年私の生まれたころですから、その頃にもうこれほとんど吹いてないということだったですね。
で、ハローローは抜かしていきなりツツレー、ウか。ウが入ります。ウーツーツレーレ。
またウーロローとウを入れてください。一番最後のところですね。一番最後の三押し三押しってかいてあるそのツのメリの前にウを、もう堂々と入れていいと思います。
⦅実演する⦆
こういう風に吹いてましたね、うちの父の場合は。
であの九州の方で、もちろん多くこれを吹く人がいるんですけれども。えーと鈴木多聞さんという人に聴かせてもらったらもうちょっとアクが強いですよね。
⦅実演する⦆
こうウの折り込みまで入っちゃって。ウーウーツーツレーレ。でーあの、吹きながら時々喋ったりしてね、あー失敗したなとか言ってね。面白いんです。
⦅鈴木多聞氏風に実演⦆
なんかね、装飾音がね言葉で入っちゃって。だからそのくらいあの、のんびり吹いてたんですね。のんびり吹いてるんですよ、その人も。そんな先を急がないんです。ツレー、あー弱った、みたいな感じでね。ロー、あー出ない、とかって言いながら吹いてる。そのくらいあのー、間々がたっぷりしてましたね。切ってからも、スー(ゆったりと呼吸)って。
それでは、その人の、だから鈴木多聞さんが九州で吹いてたのはもう、うちの親父のは割合あっさりしてたんだけども、かなりアクが強かった。一番最初の、調の一番最初のからしてもう違うんですよ。
⦅初代鈴慕風に実演⦆
ってうちの親父はこうやって吹いてたんですよ。
⦅再度実演⦆
そしたらもう、九州の鈴木多聞さんは、装飾音のウにロウとかってまた装飾音がついちゃう。
⦅鈴木多聞氏風に実演⦆
こういう感じでしたね。それもまた良かったですけど。ま普通に、今はやっております。そういうもうアクの強い吹き方もあったという。あるということ。まだ死んでません鈴木多聞さんは、まだ元気でやってますけど。
⦅鈴木多聞氏風に実演⦆
で多聞さんも、コミ吹きはしてませんでした。あのーやっぱりあそこの津軽訛りという感じがね、出せないと。
えーでうちの父が吹いてたのは普通にウを出して
⦅実演する⦆
そして
⦅実演する⦆
こうですね、ウを出して
⦅実演する⦆
このリーってちょっと柔らかくリーっていう風にスリ下げるような感じで。
⦅実演する⦆
こうじゃなくて
⦅実演する⦆
で、点線で切るところでもね、ちょっとアヤがあるんですよね。
⦅実演する⦆
こうちょっと下げといて切るという。
⦅実演する⦆
これあのー、全部開けて装飾音にしちゃっていいですね。ヒーチチ、ヒーチチ。要するにヒですね。
⦅実演する⦆
でもこのヒも、1を塞ぐと音程は上がるんですけれども、開けると音程低いですからね、ちょっとカリ気味にしないと。
⦅実演する⦆
こう塞いだ方が音程上がるんです。1を開けるとちょっと下がります。
⦅実演する⦆
ちょっとですけどね。ヒが、ヒーチチと軽く。2行目の最後のところですね。調の方ですよ。2行目の最後のところで、チチーというところは
⦅実演する⦆
これあの大きく動かしてください。チのアタり。送りというか、押し、押しか。押し指。
⦅実演する⦆
ここんとこがちょっと、泣かせますよね。ちょっとしたことなんだけど。
⦅実演する⦆
リのこう、ちょっと放物線を描いたリーウーリヒーリ。
⦅実演する⦆
リイーリ、ちょっと下げて切る。我々琴古流の外曲やってますと、下げて切るってことはあんまり無いですからね。
⦅実演する⦆
とこう開けるくらいですけど、これは逆にリヒーリウツーツロロー、ウウツレー、ウウロロー。
それから、下り葉の方に行きます。最初はウヒ、普通のウヒです。
⦅曲の終わりの方まで実演する⦆
ここですね、ツの乙の、三三。これ、ウという音を
⦅実演する⦆
この3の指に、モーションつけるために、ウーツツローロー
⦅実演する⦆
だからその
【A面ここまで】
⦅実演する⦆
えー通して後で吹きますけど、部分的に質問がありましたらどうぞ。
どうしても書いてない装飾音が入りますので、それを気をつけてください。一番最初のウロローというね、ウが入るということと、その次ツレーというのもウが入ってウーツレーに、ウーツレーになりますよね。ウの音が入るから。
それからあのー調の方ね、調の方の、1行目の下のウーと4孔、これもリーウーと装飾音がリになって。リーウーリーリーウーツツーツローロー。
それからあの、調の方ですけど2行目の下の方のチチーのチを打つときにちょっとヒの音が、ちょっと入っていいわけですね。装飾音的に。ヒーチチールーチチチチチチチチウー。
だから指遣いとしては、そんなに難しくありません。えー、この錦風流というものも、この先いって、錦風流の虚空とかってあるんですけれども、これになると、15分、20分くらいかかるかな。長い曲ですし、難しくなるんだけども、この調・下り葉の辺ではそんなに、吹きにくい曲じゃないです。で、音の流れも非常にもう、尺八、これが尺八だって音の動きですから。これもう自由に、練習して吹いてください。
後であのー、今2尺で入れ、あのー皆さん録音とって結構ですし、その後8寸でも吹きます。8寸でも吹いて、練習の時は、どちらでも。
⦅音出しする⦆
阿字観、阿字観というと癖のある曲で吹きにくいですけども、こういうの(調・下り葉のこと)は特に吹きやすいですから。鹿の遠音、と同じような曲。それではえー、調・下り葉、通して吹きますので。こっち向こうか少しね。
調・下り葉。
⦅2尺管で通して演奏⦆
⦅続いて8寸管で通して演奏⦆
えーっと。調の方の3行目を吹きます。調、調の3行目です。
⦅実演する⦆
この一三のウというのはチのメリと同律でいいわけですね。チのメリと同律。
⦅実演する⦆
それからこの調の、2行目の。調の2行目の、頭の方なんですけどツのメリがタスキがかかっててその上またメと書いてある。これメリ込みですね。ダブルメリです。えーと、調の2行目ですね。
⦅実演する⦆
これメリ込みです。グーっと。だから音程としてはロの音程まで下がるくらいの、メリ込み。
⦅実演する⦆
こういうことですね。で大体この曲が基本になって、えー前回やりました通り・門附・鉢返し、これも大体こういう感じ。技巧的には同じですね。
えー、何か質問ありましたら。
で大体自分で吹いてみて、ここに書いてありますように調2分20秒くらい、下り葉が約3分くらいで、あがるようにしないと、冗漫で長すぎることになっちゃいますね。大体もう、割合さっぱりした曲ですから。2分20秒、3分、で両方通して吹いても5分半とはかからないということでしょうね。
でお持ちになってる長い竹があったらば、2尺、或いは9寸で吹くと、ちょっと落ち着いた味がします。あの琴古流の本曲と違ってビュウビュウ鳴らすものじゃありませんからね。あのー、自分自身の音の範囲で、かなり楽しめる曲だと思います。鹿の遠音とかっていいますと、やっぱりかなり鳴らないと、鹿を呼ぶような感じしませんもんね。あの、竹がかなり鳴るってことが必要ですけど。これはもう、人に聴かせる曲じゃなかったんでしょうからね。自分で楽しんで、お吹きください。じゃどうも皆さん。
⦅聴講者拍手⦆
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