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青木滉一郎

第一回青木滉一郎尺八演奏会 曲解説風の何か

先日『第一回青木滉一郎尺八演奏会』を開催し、無事に終演いたしました。


ご来場、および応援していただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。


ここには、公演前に、Twitter(現 X)に書き連ねた曲解説風の何かを、記録としてまとめておきます。

公演にいらっしゃった方も、そうでない方もよろしければご覧ください。




【調・下り葉】

津軽地方の錦風流根笹派という流派の独奏曲です。調は前奏曲で、続いて下り葉を演奏します。5分半程度の小曲です。 私は琴古流の奏者ですが曽祖父にあたる初代鈴慕が錦風流の曲を習って楽譜にした関係で、レパートリーになっています。ただし本筋の方とはスタイルが違うと思います。


尺八曲の中では定番曲で、サブスクにも何種類か見つかりました。聴き比べて味の違いを感じていただくのもいいかもしれないです。ただし、これも尺八曲あるあるで、同名異曲が多いので注意が必要で、たとえば琴古流本曲の下り葉の曲などは別曲です。 https://music.apple.com/jp/album/%E6%A0%B9%E7%AC%B9%E6%B4%BE%E9%8C%A6%E9%A2%A8%E6%B5%81-%E8%AA%BF-%E4%B8%8B%E3%82%8A%E8%91%89/1545866880?i=1545866882…



曲調は素朴で、先代の言葉を借りれば「割合さっぱりした曲」「びゅうびゅう鳴らすものじゃない」「人に聴かせる曲じゃなかったんでしょうから」といった感じです。 とはいえ、芸大とかで訓練してしまっているのもあり、練習していると解釈に凝りたくなってしまうのですが。 https://onl.sc/TQim4cy




そこで登場してもらうのがこの楽器です。九州の明暗系の尺八家である富永静波作の二尺管です。二代鈴慕が鈴木多聞氏から譲り受け、古典本曲集成というLPの録音に使用しました。その後はほぼ使われていませんでしたが、今回のために修理して演奏します。クセもあるし、鳴りやピッチのバランスも、(続く)






整ってはいませんが、それも良し、というか、曲の素朴さと、奏者の自我をうまく中和するアダプタみたいな役割を、クセのある古楽器に担ってもらおうというのが、今回のこの曲のコンセプトです。古い時代の本曲の演奏に思いを馳せつつ聴いてもらえると良いかなと思います。(写真にうつってる楽器です)






と、まあ理屈はさておいて、素朴な小曲をコンサート全体の前奏曲的な役割にして、お聴きになる方に尺八の耳になっていただくような構成のイメージでいます。自然体で演奏できればよしと思っています。



【渺】

廣瀬量平作曲 1972年11月、青木静夫(二代青木鈴慕)が、自身のリサイタルで初演した曲です。実は初演の演奏は私家盤LPに収録されたりします。 今回のプログラムの中では、現代音楽を一曲は入れたかったこと、知る限りでもかなり自由な解釈の余地がある曲であることから選曲しました。


曲は1〜7段まであります。1〜5までは最低限の指示の音符を書いてくれています。しかし終曲部の6,7段の楽譜には音符は全くなく、数行の漢文のようなものがあるのみです。つまりそこからインスピレーションを得て自由に演奏しなさいということだと思うのですが、ここをどうするかが難儀のしどころです。


考えてみれば、廣瀬量平が書いた楽譜を約9分演奏した後に、自分で考えて約2分演奏しないといけないってすごい曲だなと。色々アプローチは思いつきますが、何となくの理想としては、美味いスープに美味い麺が浸かってればその上のチャーシューが何だったとしても美味いラーメンになるみたいな?違うか…


曲想は、廣瀬量平によれば「曲頭の「遠いもの」「客観的なもの」が次第に「近づき」、「主観的」になり、やがてその頂点に達したのち終る」とのことで、そのようなイメージで組み立てました。写真のCDには、三橋貴風先生の演奏が入っています。サブスクにこそないですが、普通に新品で買えます。


あとは、楽譜を独特な配置で置くように指示がある曲です。なので舞台の見た目も変わっています。思うのは、このような特殊記譜の作品は、それを見たときに楽譜から受ける驚きが大事だなということです。そのために置き方の指示もあるのではと。これは音源で聴いても伝わらない部分なので、ぜひ会場で。



ということで、『尾上の松』ですが、地歌箏曲をよく知っている方には定番曲かと思います。箏は宮城道雄、尺八は初代鈴慕の手付のもので、賑やかな三曲合奏です。数日前に出したYouTubeを見ていただけると、雰囲気がわかるかなと思います。

地歌「尾上の松」神楽拍子〜後唄【青木滉一郎尺八演奏会 PR動画】

https://www.youtube.com/watch?v=5d6j3oCa_Fs&feature=youtu.be


奏者が3人とも芸大院卒ということもあり、良くも悪くも芸大っぽい演奏になると思うし、そのつもりで今回の演目の中に入れています。理想としては、安定したアンサンブルの中で、リアルタイムのやりとりができることですが、どうなるでしょうか。


【呼返 鹿の遠音】

こちらも尺八音楽では定番曲でしょうか。実は正式なやり方ですと繰り返しが多くかなり長尺になるのですが、殆どの場合で多少短くして演奏します。今回は11分程度になります。別の琴古流本曲『盤渉調』を前奏とすることもありますが、今回は無い予定です(当日まで気が変わらなければ)




身も蓋もないのですが、以下の動画と尺も出演者も全く同じ内容になるかと思います。私の芸大院修了演奏です。これよりは多少マシな演奏にするつもりですが…. あと尾上の所に書いたことと通ずるのですが、今回のこの曲は、芸大ではしないような演奏にするつもりです。(続く)

琴古流本曲 鹿の遠音【青木滉一郎・青木鈴慕】(Shika no Tone)

https://www.youtube.com/watch?v=DPPHk0B3NrQ



琴古流本曲の譜面には、最低限の情報しか書いていません。音の加減や装飾など譜面にない部分は自由が効き、(言い方悪いけど)その楽譜の不完全さにつけ込むような形で、各人が創意工夫を凝らし、芸術の域まで持ち上げたというのが、現代琴古流本曲演奏史の一面だと思います。

鹿の遠音 (山口五郎・青木鈴慕)/Shika No Tohne (Yamaguchi Goro & Aoki Reibo)



今回のプログラムでは、どちらかといえば淡々とただそこにあるような『調・下り葉』と比べて、より即興的で緊張した『鹿の遠音』という感じで、音楽的な質の違いを感じていただけるかもしれません。 通の方は、サブスクにも何種類もあったので、色々聴き比べるのもよいかも。 https://music.apple.com/jp/album/%E9%B9%BF%E3%81%AE%E9%81%A0%E9%9F%B3/1556772696?i=1556772697…


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